あなたの命と家族を守る。自動車事故対策機構(NASVA)とJNCAP

ラグジュアリーモーターズワールド

自動車を選ぶとき、あなたは何を基準にしますか? 美しいデザイン、心躍る走行性能、日々の家計を助ける燃費性能、あるいは使い勝手の良い室内空間。その全てが、カーライフを豊かにする大切な要素です。

しかし、その全ての土台にあるべき、最も根源的で、決して妥協してはならない要素が一つあります。それは「安全性」です。

全ての自動車メーカーは、自社の製品が安全であると主張します。カタログには最新の安全装備の名前が並び、テレビCMでは安心感のあるイメージが映し出されます。しかし、私たちはその安全性を、どうやって客観的に、そして公平に比較・判断すればよいのでしょうか?

その極めて重要で、かつ難しい問いに、唯一無二の答えを提示してくれる機関。それこそが、自動車事故対策機構(NASVA)です。

この記事では、NASVAという組織の全体像を解き明かし、彼らが実施する自動車アセスメント「JNCAP」の結果をどう読み解き、そして、その知識を「自分と大切な人の命を守るための、最も賢明なクルマ選び」にどう活かすのかを、徹底的に解説します。

第1章:NASVA(自動車事故対策機構)とは? – 自動車安全の守護神

NASVAは、国土交通省所管の独立行政法人です。この「独立行政法人」という立ち位置が、その活動の信頼性を担保する上で非常に重要です。つまり、特定の自動車メーカーの利益に左右されることのない、公的かつ中立な立場で、国民の利益のために活動する組織であることを意味します。

NASVAの使命は多岐にわたりますが、その活動は大きく分けて3つの柱から成り立っています。

1. 自動車アセスメントの実施(JNCAP)

この記事の核心となる部分です。国内で市販される自動車の安全性能を試験・評価し、その結果を公表しています。これにより、ユーザーが安全な車を選びやすい環境を整え、同時に、メーカーにより安全な車の開発を促すという、二つの大きな役割を果たしています。

2. 運行管理者等への指導講習

私たちが日常的に利用するバス、タクシー、トラックといった事業用自動車。これらのプロドライバーを管理・指導する「運行管理者」に対して、事故防止のための専門的な講習を行っています。これは、私たちが直接ハンドルを握らない場面での安全をも確保するための、重要な活動です。

3. 交通事故被害者への支援

万が一、交通事故によって重度の後遺障害を負ってしまった方々への介護料の支給や、療護施設の運営、交通遺児への支援など、事故の悲劇を少しでも和らげるための支援活動を行っています。安全の追求だけでなく、その先にある被害者の救済までを視野に入れている点に、NASVAという組織の深い使命感が表れています。

このように、NASVAは単なる試験機関ではなく、事故の「未然防止」「被害軽減」「被害者救済」という、自動車社会における安全の全てを包括的に担う、まさに「守護神」のような存在なのです。

第2章:NASVAの核心的価値 – 自動車アセスメント「JNCAP」の全貌

NASVAの活動の中で、私たち一般ドライバーに最も直接的に関わるのが、自動車アセスメント「JNCAP(ジェイエヌキャップ)」です。

JNCAPとは何か?安全性を「見える化」する公的なものさし

JNCAP(Japan New Car Assessment Programme)とは、国内で販売される新型車を中心に、NASVAが中立的な立場で衝突試験や安全装備の性能試験を行い、その結果を誰もが分かるように点数と星(★)の数で公表する制度です。

メーカーが社内で行う安全試験とは異なり、全ての車が同一の基準・同一の環境で試験されるため、メーカーや車種の垣根を越えて、安全性能を客観的に比較できる唯一の公的な「ものさし」となります。

JNCAPが評価する「2つの安全」 – ぶつかった時の安全と、ぶつからないための安全

JNCAPの評価は、大きく分けて2つの側面から行われます。この2つを理解することが、現代の車の安全性を正しく知る鍵となります。

  1. 衝突安全性能評価(事故で、いかに乗員と歩行者を守るか) これは、万が一事故が起きてしまった際に、乗員や衝突された歩行者の被害をどれだけ軽減できるかを評価するものです。「パッシブセーフティ(受動的安全性)」とも呼ばれます。

    • フルラップ前面衝突試験: 車を壁に正面から衝突させ、運転席・助手席のダミー人形へのダメージを計測します。
    • オフセット前面衝突試験: 運転席側の一部を衝突させ、より現実の事故に近い状況でのボディの変形や乗員保護性能を評価します。
    • 側面衝突試験: 車の側面に台車を衝突させ、運転席ダミーへのダメージを計測します。
    • 後面衝突頚部保護性能試験: 後ろから追突された際の、むち打ち被害をどれだけ軽減できるかを評価します。
    • 歩行者保護性能評価: 人型のダミーと車を衝突させ、歩行者の頭部や脚部への衝撃を評価します。
  2. 予防安全性能評価(事故を、いかに未然に防ぐか) こちらは、近年急速に進化している先進安全技術(ADAS)が、どれだけ事故を未然に防ぐ能力があるかを評価するものです。「アクティブセーフティ(能動的安全性)」とも呼ばれます。

    • 衝突被害軽減ブレーキ(対車両・対歩行者): 前方の車や歩行者を検知し、衝突の危険があれば自動でブレーキをかける機能の性能を、昼間・夜間の両方で試験します。
    • 車線逸脱抑制機能: 車が車線からはみ出しそうになった際に、警報やハンドル操作で車線内に戻す機能の性能を評価します。
    • ペダル踏み間違い時加速抑制装置: 駐車時などにブレーキとアクセルを踏み間違えた際の急加速を抑制する機能の性能を評価します。
    • 先進ライト: 夜間の視認性を高めるハイビームアシスト機能などを評価します。

「ファイブスター賞」の意味と評価の読み解き方

JNCAPの結果は、最終的に「★」の数で総合評価が示されます。最高評価は5つ星(★★★★★)です。 そして、最高ランクの栄誉として「ファイブスター賞」が設定されています。これは、上記の「衝突安全性能」と「予防安全性能」の両方で、最高ランクである「Aランク」を獲得した車種にのみ与えられる、最も安全性が高い車であることの証です。

ウェブサイトでは、総合評価の星の数だけでなく、各試験項目の詳細な得点も公表されています。「A車とB車はどちらもファイブスターだけど、詳しく見ると歩行者保護性能ではB車の方が点数が高い」といった、より深いレベルでの比較検討が可能です。

第3章:実践!NASVAウェブサイトで、本当に安全なクルマを選ぶ方法

では、この貴重な情報をどのように実際のクルマ選びに活かせばよいのでしょうか。以下に具体的なステップを示します。

  1. NASVAの「自動車アセスメント」ページにアクセスする まずは公式サイトにアクセスし、JNCAPのページを開きます。最新の評価結果や、過去の評価結果一覧が掲載されています。

  2. 気になる車種の評価結果を探す メーカー別や評価年度別で、あなたが購入を検討している車種の評価結果を探します。同じ車種でも、年式やマイナーチェンジによって安全装備が異なる場合があるので、できるだけ新しい評価結果を確認することが重要です。

  3. 「総合評価」だけでなく「詳細な得点」を比較する 第一候補の車だけでなく、競合となる車種や、少し予算を上げた場合に買える車種など、複数の車の評価結果を並べて比較検討します。特に、あなたの使い方に合わせて重視する項目(例:歩行者の多い市街地を走るなら「対歩行者ブレーキ」の得点、家族を乗せるなら「後面衝突頚部保護」の得点など)を重点的にチェックすると、よりあなたに合った安全な一台が見つかります。

  4. ディーラーで具体的な質問をするための「武器」にする JNCAPの結果を基に、「この車の夜間における歩行者検知ブレーキの性能は、JNCAPの試験で高得点でしたが、実際の使用感はどうですか?」といった、具体的で専門的な質問をディーラーの担当者に投げかけることができます。これにより、あなたは「よく調べている、真剣な購入者」として認識され、より質の高い情報を引き出すことが可能になります。

結論:最高のクルマ選びは、最高の「安全」選びから始まる

自動車は、私たちの生活を豊かにする素晴らしいパートナーですが、同時に、一瞬にして日常を奪う凶器にもなり得る存在です。そのリスクを最小限に抑え、自分と、隣に乗る家族と、そして社会全体の安全を守ることは、ハンドルを握る全ての人の責務と言えるでしょう。

NASVA、そしてJNCAPは、その責務を果たすための、最も強力で、最も信頼できる羅針盤です。デザインや燃費性能で心を惹かれる一台が見つかったとしても、どうか契約書にサインをする前に、一度だけ立ち止まってください。そして、NASVAのウェブサイトを訪れ、その車の「安全という名の成績表」をご自身の目で確かめてみてください。

そこで費やしたわずかな時間が、これからの長いカーライフにおいて、何物にも代えがたい安心感をもたらしてくれるはずです。最高のクルマ選びとは、最高の「安全」選びから始まるのです。

>>自動車事故対策機構(NASVA)公式WEBサイト

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執筆者: K